聖剣3 デュラン×リース

「女神様に似てる」




今回の旅は、痛みを知るための旅だったのかもしれない。
けれど、傷痕は残っても、
あの時の傷にしみ込んで癒してくれた、
彼女の優しさを俺は忘れない。
そして、これから先も、
―――失いたくはなかった。




 全天が幾万もの煌めきで埋め尽くされ、まるで今にも星が振り出しそうな夜空。
 宴の喧噪を遠くに聞きながら、その宴の主役であるはずの三人は、フォルセナ城の中庭で夜風にあたりながらその光景を眺めていた。
 その夜闇を貫くようにボン・ボヤジの大砲が立っているのがどうも雰囲気を打ち壊しているのだが、それでも、心が癒されるような幻想的な眺めだった。
「うう……さっき、飲まされた水……ものすごく苦かったぞ……」
 よほど苦かったのだろう、ケヴィンがしかめっ面で舌を突き出した。それを見て、リースはくすくす笑う。
「酒だからな、仕方ないさ」
「ケヴィンに絡んでた人、すっかり酔ってましたものね」
 さあ飲めとものすごい剣幕で杯を勧められ、断わりきれなかったケヴィンだったのだが、飲んだはいいものの、あまりの強烈な味に泣き出しそうになり、危ういところでデュランとリースが執り成しに入って、そのまま逃げてきたというわけなのであった。
「人間って、あんなもの飲めるのか……」
 解せないという顔でしみじみ呟くケヴィンに、デュランとリースは顔を見合わせて笑い出す。
 つられたようにケヴィンも笑い出して。
 しばらく三人の笑い声が共鳴して響いていた。




「もう、こうやって三人でいるの、終わり、なんだな……」
 笑いの波が引いたところで、ふとケヴィンがこぼす。なんだか寂しそうな響き。
「そうだな……」
「……そうですね」
 二人も言葉少なく返し、声は闇に沈んで静かになる。
 けれど。
「でも、オイラ、デュランと、リースと、一緒に旅ができて、とっても楽しかった」
 ケヴィンは顔を上げてにこやかに言った。
「オイラ……海の上でリースが泣いたときとか、アルテナのお城でデュランが話してくれたときとか……すごく嬉しかった」
「……あん?」
「どうしてですか……?」
 何故そんなときに?
 不思議そうな二人に、ケヴィンは満面の笑みで答えた。
「だって、それって、二人が本当のこと教えてくれてるってことだから、……ああ、オイラはデュランとリースの仲間なんだって、一緒にいていいんだって……、だから、嬉しかったんだ」
 ひと呼吸置いて、ケヴィンは少し真剣な表情で続ける。
「だから……オイラたち、仲間だから……また、会える?」
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、デュランはケヴィンの髪を思い切りぐしゃぐしゃにし、リースはケヴィンの手を両手で包み込んで握り締める。
「当たり前だろう、そんなの」
「会おうと思ったら、いつだって、会えますよ」
 二人の笑みはとても優しげで。
 ケヴィンは思い切り首を縦に振っていた。





「さて、そろそろ戻るか」
「さすがに主役がこんなに姿を消してたらまずいですよね」
 すでに誰が主役かも忘れているほど無礼講になっている気もしないではないが、三人は宴の席に戻ることにした。
 何やら歌を口ずさみながら並んで歩くケヴィンとリースを後ろから眺めながら、デュランはそっと思っていた。


仲間だけど、ただの仲間じゃない。このままじゃ、終わらないんだ。





◇              ◇




 翌日。
 日もだいぶ高く昇った頃、三人は昨夜もいたフォルセナ城の中庭に来ていた。
 ボン・ボヤジが大砲で月夜の森まで送ってくれるらしい。
 ボン・ボヤジとケヴィンが大砲を前にしてやりとりしている。
「こっちの方角でいいんじゃな?」
「うん、そっちの方に、月夜の森があるんだ」
「ううむ……そっちのほうに飛ばすのは初めてじゃからなー……、森には飛ばせるが、森のどこに飛ぶかは保証できんのー……」
「いいよ、森のどこかに飛ばしてくれれば、オイラ、歩いて帰るから」
 準備完了じゃ! とボン・ボヤジが言ったところで、ケヴィンは二人を振り返った。
「二人とも、また会おうね!」
 デュランとリースが頷くのを見て、ケヴィンは大砲に乗り込み、ボン・ボヤジのかけ声とともに月夜の森に向かって飛んでいった。
 今、しばらくの別れ。
 でも、きっとまた、三人で笑い会える。




「リースももう行くか?」
「ええ、ローラントでも帰りを待ってるでしょうから」
「じゃあ、その風の太鼓は任せるな」
 リースの手には風の太鼓が握られている。フラミーを呼ぶために使っていたものだ。もともとリースたちアマゾネスは翼あるものの父を護るためにいる。風の太鼓をどうするべきか三人で話し合ったときに、ローラントにあるのが一番適当だろうと、リースが預かることになったのである。
「俺は今までとたいして変わらないだろうけど、……リースは忙しくなるんだろうな?」
「ええ……、まだローラントの復興も始まったばかりですから。でも、会おうと思えば会えますよ、いつだって」
 そう言ってリースはふんわり笑った。
 陽射しにその笑顔がとても眩しい。
 言うのなら、今しかない。
「大変そうだな……、まあ、もし、何か援助が必要なことがあったら、言ってくれ。俺自身はこの通り、力仕事程度しか役立てないだろうけど、黄金の騎士だとか、聖剣の勇者の名前が役に立つときもあるだろうし」
 真剣な表情で語るデュランに、リースは驚いた表情をする。
「ローラントを解放するのを手伝ってくれただけでも、私は充分嬉しいですよ?」
 リースが何か続けようとするのを制して、デュランは違うのだと首を振った。
「今までずっと支えてもらってきたんだ。リースがいなかったら……竜帝には勝てなかった。だから、今度は……俺が、何かお前の役に立ちたい」 


今はまだ、何も言えない。
だけど、いつか必ず、告げる。
遙か空の高みを吹く、あの風に誓って。



 その言葉を聞いたリースは俯いてしばらく何か考えていたが、ふと顔を上げ、表情を緩めてこう言った。
 たぶん、彼はその言葉を忘れたりはしないだろう。
「わかりました……。それじゃあ――――……」


END


Index ←Back
Page Top