聖剣3 デュラン×リース

ほっとみるく




 それは、六人での旅を始めてから、たぶん何度も繰り返されていた光景。
 何故、そのとき、その瞬間に、気付いてしまったのだろう。


「気をつけろ、奇襲だぞ!」


 そう、それはきっと。
 自分がいつもその光景に背を向けていたから。


「危ねぇ、アンジェラっ!」




 それは、偶然。
『その光景』をリースが目にしたのは、本当に偶然だった。
 いつも戦うときは、アンジェラとシャルロットの二人の魔法使いを護るように囲んで、残りの四人が武器で戦う。だからこそ、いつもその言葉を聞いていても、リースはその光景を見ることはなかったのだ。
 たまたま、四人の輪の間を擦り抜けて、モンスターがシャルロットに襲いかかろうとしなければ。


 目前にモンスターが迫り、シャルロットは悲鳴を上げる。逃すものかとリースが槍を旋回させそれを追い、―――輪が崩れた。
 護り手のいなくなった空間にモンスターが殺到し、呪文使いたちにまで攻撃を及ぼし始める。シャルロットはモンスターを追って切り伏せたリースが護るからいい。
 だが、アンジェラは丸腰だ。呪文を唱えて精神を集中させていれば、杖で防ぐこともできない。
 そして、モンスターが無防備な彼女に襲いかかろうとしたときに、力強い声が響いて、彼女を守ったのだった。


 ―――……!


 たてがみのように茶色の髪をなびかせて、デュランがアンジェラとモンスターの間に割り込む。左手に握られた盾の表面にモンスターの爪を滑らせると、音が聞こえるほどの勢いで剣を振り下ろした。
 深い傷を負い、わずかにふらつきながらも、相手は退かず、更なる攻撃をデュランに加えようとする。しかし、そのわずかな間が、雌雄を決した。
 アンジェラの呪文の詠唱が終わる。その場に残っていた全てのモンスターは、彼女の魔法により、一匹残らず焼き尽くされたのだった。




「やれやれ」
「疲れたー」
「今回はちょっと大変だったわね」
 それぞれが武器を収めていく中、リースは槍をしまおうともせず、自分の腕を見下ろす。


 愛用の槍を振るって戦い続けてきた腕だ。男性陣と比べれば、いくらかは華奢だろう。だが、それでも、女性の中ではたくましく筋肉のついた部類に入るに違いない。
 足腰は山岳地帯を日々歩き回り鍛えられている。さらに加えて戦闘になれば、デュランやケヴィンと張る勢いで前線へと飛び出していくのである。
 護られるお姫様、が似合わないわけだ。


 リースは自嘲の気持ちを込めてため息をついた。
「リースしゃん、どうしたでちか?」
 シャルロットの言葉に、リースははっと我に返る。声のした方へ視線を向ければ、そこにはいぶかしげな表情でこちらを見上げるハーフエルフの少女がいた。
 槍を片付けもせず、固まっているリースを不審にでも思ったらしい。
「あっ、な……なんでもないです」
「そうでちか……?」
 リースは慌てて頭を振ったが、シャルロットは怪訝そうな顔をしたままだ。何もないわけないだろうと言い出さんばかりの顔つきであったが、彼女はそれ以上何も聞かず、早く街へたどり着こうとリースを促す。
 急いで槍を収めると、リースは歩き出そうとしている仲間たちを追った。


 どうして―――……。
 どうして、私は……アマゾネスなのでしょう。
 小さい頃少し憧れた、護られるお姫様。
 でも、私には不似合いな言葉。だって、私は『護る』者なのだもの―――。




 それ以後、道中は穏便なものだった。特にモンスターの大集団に襲われることもなく、時折現れる数匹を退ける程度。もう少しで街が視界に見えてくるかというところで突然の大雨に降られなければ完璧だったとは、ホークアイの言である。
 六人で大騒ぎしながら街道を走り街へ駆け込む。無事に宿屋の屋根の下にたどり着いた頃には誰も彼もびしょぬれだった。



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