悠久の絆

番外編


ずっと一緒






 そのとき、少年は右足の痛みをこらえてうずくまっていた。
 めったに取れない薬草を取りに来て、崩れた斜面にそれを発見し、なんとか採ったものの転げ落ちたのだ。全身土だらけで立ち上がろうとしたら右足に鈍い痛みがはしって動けなくなり、そしてずいぶんと時間が過ぎた。
 濡れた草の上にいたから、すっかりお尻は湿っている。少年が最初にいた場所は彼が背中を預けている遙か上にあり、ここを登らなければ家には帰れない。
 集落の人々は少年が森に行ったことは知っているだろうけれど、まさかこんなことになっているとは思いもしないだろう。

(どうしよう……)
 少年は左手にずっと握り締めたままの薬草を見て、泣きそうになった。
 早く、これを持って帰らなくちゃいけないのに。
 脳裏に浮かぶのは、彼の隣の家で寝込む少女の顔。
 彼女は高熱でもう何日もうなされていて、先日やっとのことで連れてきた医者にも匙を投げられた。助けられるのは治療院くらいしかないと宣告されたのだ。
 こんな田舎で、治療院にかかって薬や魔法で癒してもらう余裕が、あるはずがない。
 彼女の両親も周囲の人々ももう絶望するしかなくて、けれど少年はどうしても諦めることができなかった。
 村に伝わる薬草がもしかしたら効くかもしれない。そう思って少年はいつもは決して入ることのない奥まで分け入ってきたのだった。それなのに、結果がこの様だ。
 目じりに涙が浮かんできて、少年は慌てて袖で擦った。



「あ、いた」
 聴いたことのない声がする。少年が声の場所を探して上を見上げるのと、頭上に影がさすのは同時だった。
 岩場の上から、誰かがこちらを覗き込んでいる。
 髪が長くて、自分より背が高い、女の人だと少年は思った。少年が見ている前で、その人は勢いをつけて飛び降りてきた。

 風が吹く。驚くほどゆっくりとした勢いで、女の人は少年の前に降り立った。
 亜麻色の髪の、やはり少年の見覚えのない人だ。きらきら輝く水色の瞳に優しく微笑まれて、少年は何だかひどく泣きたくなった。
「大丈夫? 怪我はしてない?」
「足……」
 思わず視線を落とすと、女の人もそれを追う。ああ、とその人は納得したようだった。

「足、くじいたのかな」
 亜麻色の髪の女の人は、そう呟くと少年の足に軽く触れた。ほどなくして彼女の手の辺りからゆっくりと温かさが広がっていき、入れ替わるようにずっと彼を苛んでいた痛みが引いていった。
 少年は呆気にとられて目の前の人を見つめる。
「もう立っても大丈夫だよ」
 立ってみて、と促され少年は恐る恐る立ち上がろうとした。少し前同じことをしようとしたときとは違い、全く痛みがない。ついでにその場で跳ねてみるとさっきまでのことが嘘のように身体が軽かった。

 女の人と目が合う。
「あんまり無茶はしちゃ駄目だよ」
「……ありがとう、ございます」
 世話を受けたらお礼を言うこと、という母親の小言が脳裏に浮かんで、少年はかろうじて言葉を搾り出した。それに対して女の人は気をつけてね、と笑って言った。
 今のは一体なんだったのだろう、と少年は考える。ここに降りてきたときの様子。彼の足に触れただけで痛みと怪我を治したこと。普通の生活では決してありえない。これは、もしかすると―――。



「エル、用件は済んだのか?」
 今度は男の人の低い声がした。相変わらず、少年の聞き覚えのない声だ。エル、と呼ばれた女の人は斜面を見上げるとそちらに向かって笑いかけた。
「うん、怪我してたけど治したから大丈夫」
「せめて状況だけでも説明してから行ってくれ。いきなり消えられても困る」
「え、言わなかったっけ」
 続くやり取りに少年が斜面を見上げると、茶髪の男の人が呆れた様子でこちらを見下ろしている。
「言ってない。人助けしてくるね、の一言だけで、俺が確認する前に飛んでいっただろう」
「……ごめん」
 失敗した、とばかりに女の人が舌を出す。それも一瞬のことで、顔の前で手を合わせると男の人に向かって頭を下げた。
 当の男の人は一つため息をついただけで、気を取り直したように少年を見る。

「まず、こっちにあがってくるのが先だな。エル、連れてこれるか?」
「大丈夫。デューより軽いでしょ。―――ごめんね、ちょっと抱えるからね」
 上に向かって笑い飛ばすと、女の人は有無を言わさず少年を抱き上げて軽く地面を蹴った。同時に少年の身体が宙に浮く。
「わぁ……っ!」
 少年の口から漏れたのは歓声だった。ほんの数秒だったけれど、女の人に抱えられた少年は空を飛び、転げ落ちた斜面の上に楽々と舞い戻ったのだ。
 地面に下ろされて、少年はまじまじと女の人を見た。
 人の傷を癒して、空を飛ぶ。
 誰にでもできる芸当ではない。仕掛けを用意する手品師とは違う。これは、やっぱり。

「精霊が教えてくれたんだよ、小さい子が動けないでいるって」
「……今度からはそれを言ってから行動すること。精霊の声は俺には聞こえてないんだからな」
「はい。わかりました」
「まったく、すぐ傍だからよかったものの、これが遠くだったら俺にどうさせるつもりだったんだか」
「うん、本当にごめんね」 
 一通りやり取りを交わすと、茶髪の男の人と亜麻色の髪の女の人は穏やかに笑い合う。少年には理解できない内容ばかりだが、もしこの人が本当にそうなら。

「あ、あのっ……!」
 少年が声を上げると、二人が驚いてこちらを見た。全く同時に二つの視線を受けて、少年はわずかにたじろぐ。全身が一気に緊張し、少年は思い切り唾を飲み込んだ。
「お姉さん、神官さんなの!?」
 少年が思わず詰め寄ると女の人は困ったように視線を彷徨わせる。
「あ、うん、ちょっと違うような……」
 魔法使えるから間違いでもないかもとあやふやな答が返ってくる。
 瞬間、少年の脳裏に少し前の記憶が蘇った。この森に入ってくる前に見た、意識もなく寝台の上でうなされる少女の顔。
 治療院でなければ癒せない病。たった一部の者にしか与えられない恩恵。そのほんのひとかけらでも彼女に与えてくれたなら。

「魔法が使えるんでしょう!? お願い、サシャを助けて!」
 少年が叫ぶと目の前の二人の顔色が変わった。何かただならぬことだとわかったらしい。女の人がわずかに身をかがめ、優しい声で問いかけてくる。
「サシャ、っていうのは誰なの?」
「僕の……隣の家の女の子。ずっと熱でうなされてて、治療院でもなくちゃ治せないって言われて……」
 ずっと、一緒に育ってきた。これからもずっと一緒に育っていくのだと思っていた。それが、たったあれだけの事で失われてしまうなんて。
 女の人は隣の男の人を見上げる。そこで少年は二人の表情がとても真剣なものになっていることに気がついた。

「……デュー」
「ああ。急いだ方がいいんだろうな。飛んで大丈夫なのか」
「<アレクルーサ>になれば、この子くらいは」
 女の人が頷くと、男の人は一方向を示す。そちらは森の入り口、少年の村にあたる方向だった。
「ここを真っ直ぐ行けばいい。そんなに時間はかからないと思う」
「デューは?」
「俺は馬と荷物をとってから行くよ。もし俺の力が必要なくらいなら、待っててくれ。すぐ行くから」
「うん、わかった」
 男の人は背を向けると、あっという間に森の中に消えてしまう。それを見送って、女の人は少年に笑いかけてきた。
「サシャ、助けるよ。少し怖いかもしれないけど、我慢していてね」

 変化は一瞬。女の人の水色の瞳に輝きが増すと、それはあっという間に妖しげな光を放つ銀色へと変わる。同時に真っ直ぐだったはずの髪は豊かに波打ってきらきらと銀色に煌めき出した。
 少年はごくりと唾を飲み込む。その瞳は人ならぬもの。突如として少年のうちに湧きあがってきたのは畏れと呼べるものだった。知らず知らず少年の身体は緊張する。
 女の人はそんな少年の様子を見て瞳に悲しげな色を宿して苦笑した。
「ごめんね、怖いよね。でも、少しだけ我慢して」
 そういうと女の人は先ほど斜面を登ったときのように少年を抱え上げる。軽く地面を蹴ると勢いよく飛び上がり、二人はあっという間に空へ舞い上がった。少年の眼下に緑が広がる。いつも見上げていた木々はすべて少年の足元にあった。
 まるで鳥になったような。
 緑が途切れる向こう側にいくつもの屋根が見え隠れする。あれが少年の住む村だ。
「あそこだね―――」
 女の人は呟き、少年を抱えたまま空を飛んでいく。木々は素早く後方へ流れていき、少年が迷いながら進んできた距離を飛び越えてあっという間に村の上空へと辿り着いた。

「サシャの家はどこなの?」
 尋ねられ、少年は人が群がる一軒を勢いよく指差す。突然高度が下がり、眼下に広がる屋根が見る見る大きくなっていった。羽根が舞い落ちるように軽く地面に降り立つと、家を囲んでいた人々がざわめき始める。
 その中の一人が少年に気がついた。
「おい、テト、一体どこに行ってたんだお前―――」
「ごめん、通して!」
 説明している暇はない。少年―――テトは女の人を導いてサシャの家の入り口へと突進する。彼の剣幕に慌てた人々が避け、そこには一本の道ができた。
「おばさん! サシャは!?」
 テトが勢いよく飛び込むと、寝台の横の椅子に座り込むサシャの母が驚いて振り返る。
「テト!? あんたどこ行ってたんだい」
「サシャのこと、治してくれる人が来たんだよ!」
 テトの叫びに、サシャの母は動きを止め、ぎこちなく後ろにいる女の人へと視線を向けた。
「あなたは一体……?」

 テトが振り返ると銀色の印象的な女の人はにこりと笑うと静かに寝台に歩み寄る。テトは急いでその隣に並んだ。寝台に力なく横たわる少女―――サシャの顔色は熱にうなされているというのに土気色で、テトから見ても容態が悪いと伺える。
 女の人の小さな呟きが聞こえ、テトは真っ青になった。
「命が抜けていきそう……」
 魔法を使える人はそんなこともわかるのかと見上げると、視線に気付いた女の人はテトに向かって優しく笑いかけてきた。
「大丈夫なの? 助かるの?」
「うん、時間かかるかもしれないけど、任せて」
 女の人は両手を上げると、手のひらを重ねるようにしてサシャの心臓の上にかざす。そこから柔らかな光が溢れると、それはサシャの全身を包んでいった。心なしか、少しだけサシャの顔色がよくなったような気もする。

 女の人はその姿勢のまま微動だにしない。どうしたのだろうとテトが下から覗き込むと、その表情は強張り額には汗が浮き上がっているのが見てとれた。
「あのね、ごめんね。デュー―――さっき一緒にいた人が来てるかどうか見てきてくれる?」
 辛そうな女の人の声が響き、テトは頷くと外へ出ようとした。次に続いた言葉に弾かれたように飛び出す。
『このままじゃ、助けられない』



 テトが外に出たとき、そこではひとつ騒ぎが起こっていた。人々がざわめき見つめているのは村の入り口に現れた人影だった。
「こんな田舎に旅人だなんて」
「さっきの女の人といい、どうなってるんだい」
 荷物をくくりつけた馬を引いているのは、先ほどテトが出会った茶髪の男の人だ。彼女とやり取りしたように馬と荷物を持って追いかけてきたのだろう。

 女の人の声を思い出して、テトは転びそうになりながら彼の元へと走った。
「あ、おい、テト?」
 近づいていくテトに気付いたのだろう。男の人の表情が少し柔らかくなる。だが、テトの叫びを聞いて顔色が変わった。
「早く来て、このままじゃ助けられないって! さっきの人が……!」
 もし、あの人ですら助けられなかったら。その後のことを想像するだけでテトは泣きたくなった。
 男の人は躊躇いもなく手綱を放すとテトの元へ駆け寄ってくる。主人に置いていかれた馬は微動だにすることなく村の入り口となる柵のそばに留まったままだ。
 案内しようとする前に横を抜けていく男の人にテトは慌ててその後ろを追いかけた。どこがサシャの家なのかわかるはずがないのに彼は真っ直ぐ目的の家に向かっていく。
 不思議で仕方ないが、今はそれどころではない。呆然と見守る人々を横目に、テトは男の人に続いてサシャの家へと飛び込んだ。

「デュー」
 女の人は男の人の姿を見ると安堵したようにその名前を呼ぶ。その顔が今にも泣き出しそうだった。
「どうなんだ」
「ひどいの。熱はひいたけど、呼び戻すのに力が足りなくて……」
 でも助けたいの、失わせたくないの。女の人は辛そうに呟く。男の人は彼女を護るように寄り添って静かに言った。
「それなら、俺の力の分も使うといい。それでこの子は助かるんだろう?」

 男の人の声と同時に、女の人の手から生まれる光が強くなる。その輝きは、小さな家全体に溢れサシャを優しく包み込んで一瞬で消滅する。
「サシャ!?」
 どうなったのかとテトが寝台を祈るような思いで覗き込むと、閉ざされていたサシャの瞳がゆっくりと開かれた。
「……テト?」
 寝ぼけたような声が返ってくる。その顔色はすっかり健康を取り戻しており、テトは安堵し寝台にしがみついたままへたり込みそうになった。
「どうしたの……」
 問いかけるような声の語尾が途切れ、再びサシャが目を閉じる。テトが慌てると、横から笑い声が響いてきた。

「大丈夫。眠ってるだけだよ。すっかり衰弱していたから、元気に走り回るまでもう少しかかるかな―――」
 そう語る声には明らかに疲労が滲んでいる。最後まで言い切らないうちに女の人の身体は揺らぎ、力なく崩れそうになった。素早く傍にいた男の人が受け止める。
「あ、あの、ありがとうございます。……いくら、お支払いしたらよろしいですか……?」
 震えるサシャの母の声が響き、テトははっと顔を強張らせた。そうだ、治療院では高額な治療費を払わなければならないのだ。今の様子を見ても、サシャの病気はひどく重く、強力な魔法を使わなければならなかったのだろう。こんな田舎でまかないきれるものなのだろうか。今更ながらテトは蒼ざめた。あのときは、もうサシャを助けてほしくてそれだけだったから。

 自分の腕の中に横たわる女の人の様子を確認して、男の人はサシャの母に向かって苦笑した。
「いえ、何も要りません。ただ、彼女が目覚めるまで休ませていただければ」
「でも、それでは……」
「彼女も俺も神官ではありませんから。俺たちがただ助けたかっただけなんです」
 助かってよかったな。心の底からサシャの無事を喜ぶ言葉に、テトは目を瞬かせた。



 サシャが助かったという話はあっという間に村中に広がり、その恩人たる二人の客人は村長の家へと招かれることになった。
 寝台を借り眠りに着いた女の人を休ませたところで、男の人はあらためて名乗る。彼の名前はデュエールといい、魔法を使ってサシャを救った女の人は名をエルティスといった。森の中で聞いた「デュー」と「エル」というのは愛称なのだろう。
 サシャが助かり、安堵したテトは便乗して村長の家に上がりお茶をいただいていた。大人たちの話に耳をすませながら。
 二人とも神官ではないという。しかし、魔法を使えるのはルシータという街の住人だけだ。村長が尋ねると、デュエールは曖昧に誤魔化した。あまり追及されたくないのだろう。

 テトはちらりと寝台へ目を向ける。急遽用意された寝台はデュエールの希望で今彼らがいる場所の片隅に作られた。待遇としてはおざなりになってしまうと恐縮する村長の妻に、デュエールは笑って言ったのだった。
『目が覚めたときに傍に居たいんです』
 静かな呼吸を繰り返すエルティスの髪は波打つ銀色から最初に見た亜麻色の直毛に戻っている。寝台に寝かせたとき、デュエールが何度か髪を梳いてやると不思議なことにあっという間に元に戻ったのだ。

 二人とも、旅をしているのだという。その途中でたまたまテトを見つけ、サシャのことを知って助けに来たのだ。村長は何回か御礼のことを申し出たが、デュエールは笑ってだがきっぱりと断った。そして、それはしばらくしてエルティスが目覚めてからも同様だったのだ。
 謝礼を求めないばかりか、二人はそれから数日サシャの様子がよくなるまで村に留まった。
 その間、村長の家には入れ替わり立ち代り人々が訪れることとなる。身体の不調を訴える者がほとんどで、エルティスはできる限り人々を癒してやり、デュエールは症状に効く薬草を教えたり自分の手持ちを分けたりしていた。

 テトはそれがあまりに興味深く数日間サシャの家と村長の家を往復して過ごすことになる。エルティスの魔法は本当に不思議で見ても飽きず、デュエールの薬草の知識は驚くほど豊富でテトは勉強になった。それをサシャに伝えると、彼女は本当に楽しそうに相槌を打ってくれるのだ。またこうして彼女と話が出来ることが、テトには嬉しくてならなかった。

 村長の家を訪れる人が途切れ、デュエールとエルティスの手が空いたとき、テトはずっと不思議に思っていた疑問をぶつけてみた。
「どうして、サシャを助けてくれたの?」
 テトの質問に、デュエールとエルティスは一瞬顔を見合わせ、同時に笑いを浮かべる。
「うーん、テトとサシャはお隣同士って、言ったでしょう? ずっと一緒に育ってきたって」
「俺たちも同じなんだ。隣同士で、ずっと一緒だった」
「だから、これは助けなくちゃ駄目だって、思ったんだよ」
 自分たちも、こんな風にずっと一緒にいられるだろうか。幸せそうに笑い合うデュエールとエルティスを見つめながら、テトは考える。この村で一緒に過ごして、大人になっても一緒にいられたら。



 それからさらに数日後、テトはすっかり元気になったサシャとともに村の入り口に立っていた。
 サシャが回復したのを見届けた二人の旅人がようやく本来の目的のために村を辞することにしたのだ。エルティスの魔法とデュエールの薬草の恩恵を受けた他の村人も調子はすこぶる良いようで、ここ数日はみんな朝早くから元気に働いている。
 馬の荷物は明らかに増えている。お礼だとばかりに皆が食料を分けたためにデュエールは荷造りに苦戦し、テトも一緒になって手伝った。 
 馬を労わっているデュエールの横で、エルティスはサシャに向かって笑いかけていた。
「元気になってよかったね」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん」
「また、二人とも来てくれる?」
 テトが尋ねると、デュエールとエルティスは驚いたように顔を見合わせる。しばらくすると二人の顔ににじむように笑顔が広がっていった。
「そうだね。二人がもう少し大きくなった頃にでも、会いに来ようか」
「そうだな。それもいいかもしれない」
 また、会おうね。そんな言葉を残して、二人は街道に向かって歩き出す。姿が見えなくなるまで、テトはサシャと並んで二人に手を振っていた。



 約束が果たされるのは、また数年の後。
 
 

初出 2007.6.27


Index
Page Top