二人の物語

序章  神の子ら



 

 広い大陸、数ある国々の中に、ファレーナ王国はある。魔法が徐々に失われていくこの世界において、ファレーナ王国はとても特殊な国であった。
 ファレーナ王国最高峰オルカリア山の中腹には、王国の中にありながら半ば独立している街がある。

 神殿都市ルシータ。

 巨大な一本の柱を中央に抱き、周囲を同じ六本の柱に囲まれた、特殊なつくりの都市である。
 この七本の柱は神々により与えられたとされていて、伝説によれば天界から魔法の源を地上に送り出すための扉であったと伝えられている。
 <柱の結界>と呼ばれるその柱は、常にその中に多量の魔法の源を満たしていた。
 その中に存在するルシータは、ゆえに昔から魔力に満ちており、民は生まれながらにして強力な魔法を使うことができた。
 都市を統治するのは代々神の声を聞くという巫女姫であり、その下にルシータの民が神官として仕えている。

 そんな特殊な都市を有しているため、ファレーナ王国は世界の中でも特殊だった。



 そのルシータにある二人の子供が生まれたのは、十数年前のことである。
 その赤子はそれぞれ男児と女児であったが、不思議なことにまったく同じ日の同じ時刻に異なる父母から、まるで双子のように生まれてきたのだった。
 神官たちは皆口々にこれを奇跡と言い、巫女姫カルファクスがじきじき神託を行い、ふさわしい名をつけた。

 女児にはエルティスと。

 男児にはデュエールと。

 神々により名を与えられた二人は、神官たちにより“神の子”と呼ばれることになる。



 “神の子”が物心つこうという頃、巫女姫は久方ぶりに神の声を聞いた。

『これより先、永遠に栄えたくば、“神の子ら”を育てるがよい。
 だがもし、道を誤れば、二人は汝らの都市を滅ぼすだろう。
 栄華を極めたくば、神の子を育てるがよい。
 だが忘れるな、カルファクスよ。
 お前の娘は、自ら災厄を呼び起こす世界最後の巫女姫となろう』

 それは滅びの予言。神々からの宣告。
 そして、精霊と心を交わし、瞬間移動を行うほどの魔力を操る少女と、ルシータに生まれながら魔法をまったく使えない少年の姿は。
 神官たちにある過去の出来事を思い出させた。
 
 歴史は繰り返される。
 後戻りはできない。


 そして再び、時は流れた。



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