聖剣3 デュラン×リース

迷子防止策




「あ」
 うまそうな匂い、とどこかの食事どころを嗅ぎつけたらしいケヴィンの背中が、何事かと思うほどの人ごみの中、あっという間に遠ざかっていった。はねた金髪も目印となりそうな帽子も、人影の中に消えていく。
「……ケヴィンのやつ、行っちまったぞ」
 溜息をついて、デュランはわずかに下に視線を下げた。そこには同じようにケヴィンが駆けて行った方向を見つめているリースがいて、心配そうな顔をしている。彼女の目線では人の姿に遮られて、ケヴィンの姿は見えなかったかもしれない。
「大丈夫でしょうか?」
「まあ、あいつだったら匂いで俺らのことはなんとか探せそうだがな……」
「こうひとが多いと紛れてしまいそうですけどね……」
 周囲はすれ違う人々で混雑している。こうして立ち止まって会話をしていても、通り過ぎざまにデュランにぶつかり、ひどく迷惑そうな顔を向ける人が何人もいた。
「まずはここを抜けた方がよさそうだな」
「……そうですね」
 デュランたちは知らなかったが、今日は何かの祭りで近隣からも人が訪れているためにこの混雑らしいのだ。買出しにと思ったところ、宿の人に気を付けなよと言われて何の話かと思っていたら、つまりはこういうことらしい。買い物に出たのが間違いだった。
 とりあえずケヴィンの行った方向に行こうということでまとまり、デュランとリースは歩き出す。数歩歩いたところで嫌な感じがしてデュランが振り返ると、反対方向へ行こうとする人波に流されそうになっているリースの姿が見えた。
 慌てて助け出すと、リースは勢い良く肩の力を抜いた。
「す、すみません」
「こりゃもう混雑してるとかいう話じゃねぇな」
 そう呟いて、デュランはリースに手を差し出す。
「俺らまではぐれたらまずいことになりそうだから、とりあえずここ抜けるまで手ぇつないでいこうぜ」
「そうですね、よろしくお願いします」
 差し出した手にリースの手が重なる。人ごみに流されないよう手をつないで、二人は歩き出した。
「しっかし、なんだ、その台詞?」
「なんか変なこと言いましたか?」
 デュランが苦笑を向けると彼女は不思議そうな表情で返す。すれ違う人をよけながら、他愛ない話を交わすだけ。

 期限は、もう一人の仲間が人ごみから抜け出た二人の姿を見つけ、安堵の表情を浮かべるまで。


END
再掲2010.3.28


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