おまけ
「やっぱりなあ、俺が動いた方がよかったんじゃないのかなあ」
結婚式会場となった花畑から撤収しながら、ホークアイは腕を組んで唸った。隣でリースが使ったヴェールとデュランが使った布を抱えながらにべもなく答えたのはアンジェラである。
「やあよ、言ったでしょ。これは誰にも貸さないって」
「でもなあ、あの動きじゃどう言いつくろったってリースを抱えて逃げたようには見えなかったし」
既に日は傾いており、空は少し赤く染まり始めている。今回の計画に用意されたものを計画者四人にケヴィンまで巻き込んで片づけていたのだった。
シャルロットは自分が使った司祭用の台を抱えて歩いている。
「これをあたしが着てさらったふりするのはホークアイも納得したことだったでしょ、何を今さら」
アンジェラは荷物を抱えたまま自分がまとったローブを示す。鮮やかな緋色のローブだった。ケヴィンが目撃した怪しげな人が身につけていたもの。
眠ってしまったリースをホークアイがさらった、と見せかけようとしたのだが、アンジェラが絶対に他人に着せないと主張したため急遽窓から飛び出す役がアンジェラに変わったのだ。おかげで人を抱えて飛び出したにしてはかなり怪しげな動きになってしまった。見たのがデュランだったら即座にばれていたかもしれない。
「うーん、まさかデュランにあれだけ早く見抜かれるとは思わなかったからなあ」
そこで、ケヴィンは思い出したように言った。
「ああ、それ、やっぱり、アンジェラのだったんだ」
「え? うん、そう。……あいつの形見、みたいなものかな」
ケヴィンの言葉にびっくりしたような顔をすると、アンジェラはかすかに遠い目をして呟く。
今はもういない人が身につけていたもの。何の痕跡も残さず消えてしまった紅蓮の魔導師が置いていった、唯一のもの。お互いの全てを賭けてぶつかり合った戦いの場所から、アンジェラが持ち帰ってきたものだった。
「オイラ、最初に飛び出してきたの追いかけたとき、びっくりした。逃げた人、紅蓮さんの匂い、したから」
「え……?」
アンジェラは目を丸くして立ち止まった。そのまま、まじまじとケヴィンを見つめる。ケヴィンは気にした様子もなく、笑顔で答えた。
「紅蓮さん、いるはずないのにって、思った。でも、アンジェラのマントだったんだ」
その言葉を聞きながら、アンジェラはローブの裾を自分の顔に近付ける。
「ふぅん、そっか、まだ、あいつの匂いが残ってるんだ……」
呟きながら、アンジェラは嬉しそうな顔をした。いとおしそうにローブごと自分の身体を抱きしめる。
もうこの世にいなくても、生きていた証は確かに残っていて。それは今なお彼の存在を教えてくれるから。
彼女の様子を見つめているシャルロットたちに、アンジェラはいつもの晴れやかな笑顔で応えた。
「やっぱり、このローブ、ホークアイに着せなくて正解だったわね! 別の匂いがついちゃうなんて、真っ平ごめんだわ」
ホークアイのささやかな文句を背中で跳ね返しながら、アンジェラは元気よく歩き出す。シャルロットは追いかけると、彼女の隣に並んだ。
「それ、大切にしてるんでちね」
「もちろん。あたしの一番の宝物よ」
シャルロットが尋ねると、アンジェラは当然とばかりに笑って応じる。デュランに好かれていたことが嬉しいと微笑んだリースとよく似た、幸せの溢れた笑顔だった。